道 レンズ 鏡 展望所

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道 レンズ 鏡 展望所

道 レンズ 鏡 展望所

 ここに集めた作品は私が数年にわたって制作してきたものの中からブリストルでのIMPACT-6 版画会議のために選んだものです。名付けて展望所 − 長く曲がりくねった道、それは私が自分で選んだものでもあり、好む好まずにかかわらず成り行き上迷い込むことになったものでもあり、これからも続いて行く道なのです。その道でふと立ち止まってそこから見える風景を見渡す場所です。
過去15年の間、私はフィンランドと日本を創作の場にしてきました。目下、日本とフィンランドの美術大学間の交流事業である、ピグメントプリントおよびフォトポリマーグラヴュールプロジェクトに参加しています。
今年の秋には京都に2ヶ月滞在して、将来の展覧会のための材料を集め、現地の美術大学を訪問するほか、 和紙を用いたインクジェットプリンター印刷技術を日本人版画家たちから学びたいと考えております。同時にこれまでの創作活動の集大成として、数年後にフィンランド、スウェーデン、日本で開催予定の展覧会のための準備を行っています。

版画や写真の分野では世界的に技術革新が起こりつつあり、創作家として、また美術教師としての私もその流れの中に生きる一人です。
私は80年代初めにヘルシンキのフィンランド美術大学で版画の基礎を学び、その後も、常に最新の技術を身につけるよう努めてきました。現在私が用いている技術は伝統的なものから最新のインタリオ技術に及び、また、インクジェットプリンターを使って、様々な素材を版画作品に組み合わせることも試みています。インタリオ技術について多角的に学び、アクリルエッチングなどの技術を教えながら、進歩させています。
世界中で何百年にもわたって受け継がれてきた伝統的な版画・絵画・複製技法と、最新の複製技術の中から、新しい表現の可能性と自分の創造性の源を探り、そこからできるだけ多くのものを汲み取れる技法を発展させることに努めています。芸術制作は私にとって、人生の最も大きな問いに対する答えを見つけること、少なくとも正しい問いを見つけるための唯一の方法なのです。創作活動を通じて、私の心の風景を描き出し、私なりの視覚言語を創りだすことで、作品を見てくださる方々自身の世界を開く鍵をお渡しできればと思います。

「日本は見ただけでは理解できない、その中に入って行かなければならない」と言われます。私自身、力を尽くしてそのことに努めているつもりなのですが、日本が私の心に、人生を明確に見せてくれる大きなレンズを入れてくれたことは確かです。このレンズはぼやけることもありますが、日本滞在中にはそのピントが合うのです。日本文化の重層性、美意識、日常に美を見出す心的態度、こうしたものが私に力を与えてくれます。
日本人は小さいもの、はかないもの、散り枯れたものにすら美を見出します。そこに私は心を打たれてやまないのです。
日本の美の主要な概念や価値、相反するものから生まれる美、欠けたものに美を感じる文化は、私にとって遠くて近いものなのです。

    2009年9月1日
              ヘルシンキ、ミュッルプロのアトリエにて

                         アニタ・イェンセン